コミュニケーション障害

私はアドリブがきかない。

オンラインTRPGでもアドリブが苦手だし、オフラインに至っては言葉すら出てこない。
声は小さいが、合唱や演劇はできていたから、発声系統に問題があるわけではない。
複数の人が会話してる所で、自分のしゃべるタイミングをはかることができない。
しゃべるべき言葉が、とっさに口から出てこない。
言うべきことを考えたついてまとめた時には、既に言葉を発するべき時は遠い過去になっている。
何かしゃべっても声が小さくて気付いてもらえないとすごく凹むから、
いいタイミングを見つけても結局あまりしゃべらない。
何かをしゃべっても、考える時間が短いので
言いたいことを適切な言葉で表現することができない。
誤解も受けるし、わけのわからん奴とも思われる。

家族や大学時代の友達とは比較的よくしゃべれるが、舌がもつれる。
適切な単語が出てこなくて、もにょもにょとごまかして終わる。
ジェスチャーで補いまくり、時にはそれだけですます。
酷いことや意味不明なことを言ったところで怒るような間柄ではないし。

相手を傷つける言葉。
不快感を与える言葉。
理性を飛ばすほど怒らせる言葉。
そんな言葉を吐きたくなどない。

ちっちゃなころから自分は口数が少なかった。
仲のいい友達とはちゃんとしゃべったので、ただの人見知りだったのだろう。
人見知りの理由は今分析しても仕方がないが、結果として
「しゃべる練習」が不足することにはなったと思われる。

大学の寮に住んでいた頃。
多分、私の人生の中で一番よくしゃべる時期だった。
大学に受かって入学してわくわくしていて精神状態が良かったし、
同じ学校に通って寝食を共にする仲間の気安さがあった。
そんな頃、委員会の会議で、その言葉を受け取る人の気持ちを
まったく考えない発言をしてしまった。
寮内のお楽しみ小冊子のようなものを作っている委員の人に、

「それ作ってて楽しいですか？」「内容があまり面白くないんで」

酷い話である。
だが、事実、言った。
相手を馬鹿にする意図も、ケンカを売る意図も何もなかった。
がんばって冊子を作っているのに読んでいる人は少ないのではないか？
という議題が出た時だった。
私の意見としては、作っている側が楽しいのなら存続させる意義はあるが、
作る方も義務で作っているのであれば別に作らなくてもいい冊子なのではないかと思った。
読む人が少ないのは、冊子の中身が読みたいようなものではないせいだろう。
それを面白くするための方法を話し合うよりも、その冊子と冊子を作る委員会を
なくしてしまえば手っ取り早いのではないか？
それも酷い意見だが、単にあの二言を言うよりはマシだったろうと思う。

その時は冊子を作る委員会の委員長に泣かれ、自分は責められてやっぱり泣いて出て行き、
なだめに来てくれた人には「私、病気なんです。言いたいことがうまく伝わるように言えないんです」
と泣きながら訴えた。
よく覚えていないがその場はおさまり、私は会議の場で発言することは減った。

その後も、教室やサークルで似たような出来事はあった。
それは口でしゃべる時によく考えずに急いで言わなければならないせいだと思った。
サークルの仲間には、私は頭の回転が遅いので返事を急がせないように、とお願いした。
大学の学部に上がった頃には、特定の数人以外とは口がきけなくなっていた。
研究室にうつってからは、勉学に行き詰まって鬱になっていたせいもあって
必要な時以外ほとんど口をきかなかった。
必要な時ですら、話かけることを激しくためらった。
こわかった。
この人今忙しくて相手にしてくれなかったらどうしよう。
こんなこと聞いてバカにされたらどうしよう。

鬱病と診断されて休学した。

その間、インターネットでチャットという場所を得て。
人と交流ができるようになった。
と思っていた。
だが、自分という人間の本質は変わっていなかったのだ。
変わるわけがないのだ。
自分が言いたければ、相手が傷ついたり嫌がるようなことでも言うことが。
しかも最悪、相手が嫌がるということを考えもしないで言い方も工夫せずに言うことが。

それをはっきり指摘してくれたのは一人だけだったが、きっと他の人も時々感じていたのだろう。
私の言うことなど聞きたくないと、日記に書いた人がいた。
私の言うことにやけにつっかかってくる人がいた。

文字で会話するチャットならば、タイプスピードは速いから思考の遅さを補えるし、
一度ざっと発言内容を書いてから修正して発言することもできる。
少し前の話に返事をしても構わないし、声が小さいことは関係がない。
だから私はチャットではよくしゃべる。
人と円滑なコミュニケーションがとれる。
と思っていた。
だがそれは。
コミュニケーションをとっていたのではなく、単に言いたいことを書き散らかしていただけだった。
この日記のように。

チャットで交わされる言葉のやりとりは「会話」でければならないとするならば。
会話とは、人が発した言葉を受けて、別の人がそれに関連する言葉を発することのくり返しだ。
返事のしようのない独り言、リアクションの取りづらい深刻な話、
大部分の人には意味のわからない話、etc.はするべきではない。
会話の発端にならないのだから。
最悪、リアクションに困って本来話すことがある人も凍ってしまう。
そんなものはブログやmixiにでも書いておけばいい。

では、今日あった出来事を話すことは？
軽く答えやすい質問を不特定多数へ向けてすることは？
自分の好みや特技や育ちや性格について、聞かれてもいないのに語ることは？
悩みを相談することは？
愚痴を言うことは？
話し方次第で、応える方次第でもある。
会話に発展させることができるか。
その会話を見ているすべての人に不愉快な思いをさせずにすむか。
それらを考慮して会話を交わす必要がある。

重い。無理だ。「楽しいチャット」になるはずがない。
だからと言って、上記のことをまったく考えないわけにもいくまい。

チャットルームにいると、直接話している相手だけではなく、
その会話を見ている人のことも考えなければならない。
ROMっていて、その場では口を出してこないけど後でログを見て不愉快になる人もいる。
わかっていた。理屈では。気をつけてもいた。
だけど、失敗した。
そして、同じ失敗を繰り返さないという約束もできなかった。
気をつけていたのにやってしまったのだから。
だから。
その時迷惑をかけた人に、私は何も約束をすることができない。
もうしない、とも。もう誰も不愉快にさせない、とも。
人間は、反省をしても同じ失敗を何度もする生き物だ。
理屈だけでは動かすことのできない感情を持った生き物だ。
感情を交えず理屈だけで話のできる人など見たことがない。

私は
生き物だ。
人間だ。

疲れたら逃げて休む、根性のない人間だ。